「風の子戦に向けてバッティングをなんとかしたい」、そう思ってM君に個人練習を持ちかけたのは、試合の3日前だった。
もう1つの目標に専念するため残念ながら秋から戦線離脱したエイジに代わり、急速に試合出場が増えたM君。
しかしながら、正直、打撃成績は振るわない。
風の子さんはピッチャーが良い。このままだと、M君が攻撃で貢献できる可能性はゼロ。下位打線を任されるM君がなんとかしてくれれば、上位打線につなげられる。
もう3日前だが「やれることをやってみよう」と持ちかけ、突貫工事の練習が始まった。
1回目の練習は金曜日の朝。この日は早朝までの雨のため、チームの朝練は中止となったが、M君には「雨でもやろう」と伝えていた。
新しいバッティングフォームの取り組みのためには、どうしても今日やる必要があった。
幸い、7時前には雨もあがった。
「チップショット」というバッティングフォームの理屈を教えると、M君は素直にティーバッティングに取り組んだ。
2回目の練習は、土曜日の全体練習後。
この日は雨のため午前中に体育館練習となったが、そのあと個人練習開始。ティーバッティングとマシンバッティングでしっかりと振り込んだ。
だが、たったの2回で上手くなるわけはない。「明日の試合前にも練習するとしても、難しいなあ・・」と心の中で思っていると、M君が「今日の夕方も練習できます!」との申し出。
・・・自分の家庭の用事が頭をかすったが、選手の申し出を指導者が断れるわけがない。むしろ、本当はこっちだってやりたいのだ。
そんなわけで、3回目の練習は雨のあがった土曜日の夕方にも行った。
午前中の感覚が残っているからか、とても良いバッティング練習が出来た。
(後から聞いたところによると、この日の夜にもM君は自ら「バッティングセンターに行きたい」と言って、自主練習をしていたらしい)
そして4回目の練習は、試合当日の朝。
みんなよりも1時間早く集合して特訓開始。最後の仕上げをした。
M君には具体的な狙い球なども伝えた。捨てるものは捨てないと勝負にならない。狙うは初球のストレート。目標はピッチャーゴロでいいからバットに当てること。
この時点で私は、30パーセントくらいの可能性は出てきたと思っていた。
そして試合は、6対1でゆうかりの快勝!
さて、M君はどうだったのか?
結果は二打席2三振。
たったの3日練習したからっていきなり上達はしない。結果は出なかった。
私も30パーセントの期待をしていただけに、改めて思い知らされた。
「野球も人生もそんなに甘くないんだな」と。
では、何も得るものは無かったのか?
いやいや、何にも変えられない得難いものを得ることが出来た。
それは、試合後のM君の涙。
試合後にあいさつに来たM君が「個人練習ありがとうございました」と話し出すと、ポロポロと涙をこぼした。
思わずもらい泣きしそうになったが、その涙は私には悔し涙に見えた。
そうであれば突貫工事の練習の意味があった。やった者にしか湧き上がらない感情なのだから。
努力しても報われるとは限らないけど、努力しなければ報われることはない。
また次の試合に向けて、頑張ってくれるといいなと思っています。
たったの三日間の練習だったけど、とても楽しかったよ。
森川